ジョージアワインの製法 ・ ქვევრი ・ Qvevri

クヴェヴリとは?

マラニの床に口を並べる、地中に埋められたクヴェヴリ(イメージ)
地中へ

ワインの発酵・熟成に使う、ジョージアの素焼きの甕(かめ)です。

伝統的には地中に埋めて使います。数百リットルから数千リットルまで大きさはさまざまで、2013年には「クヴェヴリによる伝統的ワイン醸造法」が UNESCO 無形文化遺産に登録されました。

第1層 — クヴェヴリという甕

クヴェヴリは、地中で醸す甕。

把手のない、卵形の素焼きの甕。地中に埋め、ワインの発酵から熟成までを、この中で行います。

ქვევრი

クヴェヴリQvevri

発酵・熟成に使う素焼きの甕。

ჭური

チュリCh'uri

西ジョージアでの呼び名。クヴェヴリより古い言葉とされます。

მარანი

マラニMarani

甕を床に埋めた、ワインの蔵。

ჭაჭა

チャチャChacha

果皮・梗・種。甕でともに醸し、残りは蒸留酒の原料にも。

1〜2トン

もっとも多い大きさ

6,000〜8,000L

カヘティに残る大きな甕

20L〜

「クヴェヴリ」と名乗れる最小

卵形で、底はとがる

卵形で、すぼまった方が下。底はとがり、地中で据わるように厚みを持たせてあります。口、首、輪、胴、底と、部位ごとに名前があります。伝統的には、首のところまで地中に埋めて使います。

アンフォラとの違い

アンフォラは運搬・貯蔵用の把手付き容器を指すことが多く、クヴェヴリは把手がなく、地中に埋めて発酵・熟成に使う醸造容器です。近年、世界各地の「アンフォラ醸造」はクヴェヴリに着想を得たものが多くあります。

地中に埋める前の、卵形のクヴェヴリ(イメージ)
卵形で、底はとがる
クヴェヴリの部位とジョージア語の呼び名。地表に出る頭(タヴィ)、口(ピリ)、首(ケリ)、肩(ベチ)、胴(ムツェリ、シュアサルトケリ)、底の内側(ピリ)、底(ズィリ)。 თავი タヴィ地表に出る頭 პირი ピリ口 ყელი ケリ首 ბეჭი ベチ肩 მუცელიムツェリ・胴 ფილი ピリ底の内側 ძირი ズィリ底

部位の名前と、地域の言葉

クヴェヴリの部位には、ジョージア語の名前があります。胴の「中ほど」はშუასარტყელი(シュアサルトケリ、腰帯)とも呼ばれ、「いちばんよいワインは中ほどにある」と言われます。発酵中に浮かぶ果皮の層は「მაჭრის ქუდი(果醪の帽子)」です。

大きさの呼び名
18世紀のスルハン・サバ・オルベリアニの辞書では、大きい順に ქვევრი(クヴェヴリ)、ყვიბარი(クヴィバリ)、ქოცო(コツォ)。イメレティでは逆に ჭური(チュリ)が大きな甕です。人が中に降りて洗うほど大きなチュリは、ჩასავალი(チャサヴァリ、降りていくもの)とも呼ばれます。
とがった底
シュロシャでは კუნჭულო(クンチュロ)、カヘティでは ქუსლი(クスリ、かかと)、レチュフミでは მუჯორო(ムジョロ)。
蓋
東部は粘板岩の石の蓋。イメレティは木の蓋 ბადიმი(バディミ)で、トウヒやシナノキで作り、発酵のガスを逃がす穴が中央にあります。グリアでは როგო(ロゴ)、サメグレロでは ორგუ(オルグ)。

ジョージア国立博物館『ジョージア物質文化民族誌辞典』(2011年)、ラジオ・タヴィスプレバ「クヴェヴリの解剖学」(2018年)による

2021年、地理的表示に

「クヴェヴリ」は、ジョージアの地理的表示(PGI)です。

ワインではなく、甕そのものの名前が守られています。ジョージア国内で、ジョージアの原料から作られた甕だけが「クヴェヴリ」と名乗れます。ジョージアで初めての、農産物以外の地理的表示です。

第2層 — 甕をつくる

クヴェヴリは、職人の手から。

ジョージア文化遺産保護庁によると、2021年時点で、甕をつくる職人は50人を超え、その約9割がイメレティにいます。同じ年、甕づくりそのもの「მექვევრეობის ტრადიცია(クヴェヴリづくりの伝統)」も国の無形文化財になりました。1つの甕ができるまで、平均でおよそ3か月です。

  1. 粘土を選ぶ

    粘土に細かい川砂を5対1で混ぜ、よくこねます。どの粘土を選ぶかは、甕づくりの家に受け継がれる知識です。

  2. 少しずつ積み上げる

    底から、高さ15〜20cmずつ層を重ねて形づくります。壁の厚さは、大きさに応じて25〜40mm。

  3. 乾かして、窯で焼く

    室内で3〜4日乾かしてから、れんがの窯へ。1,050〜1,200℃で、冷ますまで含めて6〜8日かけて焼き上げます。

  4. 内側に蜜蝋を塗る

    窯から出し、70〜90℃まで冷めたところで、必要に応じて内側に蜜蝋(みつろう)を。溶けた蝋が大きな気孔をふさぎます。

粘土を積み上げて、クヴェヴリの壁を形づくる職人の手(イメージ)
底から少しずつ、粘土を積み上げる

職人の言葉

壁は10cmずつ積み上げ、20〜30個を同時に作り始めます。5月から7月に形づくり、8月に焼きます。よい甕は、鐘のように澄んだ音で鳴ります。

スルハン・チンチャラゼイメレティ、トクェムロヴァナ村 ・ 週刊誌クヴィリス・パリトラ(2024年)

焼き上げた翌日、まだ手で触れられるほど温かいうちに、地元の養蜂家の純粋な蜜蝋を塗ります。かかるのは15分ほど。注文の99%が、蜜蝋を塗った甕です。

スルハン・チンチャラゼ同上

大きさの違う甕を、年に50〜60個つくります。

ザリコ・ボジャゼイメレティ、マカトゥバニ村 ・ クヴィリス・パリトラ(2013年)

国立博物館の辞典によると、職人は10〜20個の甕を同時に手がけ、1つずつ回りながら積み上げていきます。焼く窯は、ほかの焼き物の窯と違って1階建てで、平均的な窯に甕がおよそ6個入ります。焼き上がりの時間は職人により異なり、地理的表示の仕様書は窯での加熱から冷却までを6〜8日としています。サツァブレ村のグラム・ムムラゼやマカトゥバニ村のザリコ・ボジャゼらは、甕に作り手の名前を刻む刻印(დამღა、ダムガ)の伝統をよみがえらせています。

甕づくりの村がある地方。西のグリア(アツァナ)とイメレティ(マカトゥバニ、シュロシャ、トクェムロヴァナ、チヒロウラ)、東のカヘティ(ヴァルディスバニ)

甕づくりの村

伝統の方法で甕が作られている村として、UNESCO の登録資料は、グリアのアツァナ、イメレティのマカトゥバニ、シュロシャ、トクェムロヴァナ、チヒロウラ、カヘティのヴァルディスバニを挙げています。

2021年の文化遺産保護庁の発表は、いまの甕づくりの村として、ヴァルディスバニ、オディシ、アツァナ、シュロシャ、サツァブレ、トクェムロヴァナ、マンダエティを挙げています。ヴァルディスバニでは、レミとザザのクビラシヴィリ親子が、自宅の窯で3,000リットルほどの甕まで焼きます。

技は家族の中で受け継がれ、子どもは年長者の仕事を見て、粘土の集め方、甕の作り方と焼き方を覚えます。若い職人を育てる場として、世界銀行の支援を受けたイカルトのクヴェヴリ工房(2015年着工)もつくられました。2016年には、マカトゥバニで作られた原寸の甕が、ジュネーブの国連に置かれました。

マラニの床に埋められた、クヴェヴリの口(イメージ)
マラニ — 床に埋められた甕の口

第3層 — マラニ

マラニ、甕の眠る蔵。

中世には各地の家庭や修道院に、ワインの蔵「マラニ」が備わりました。甕は床に埋められ、作業する口だけが地表に出ます。ワインの蔵は今も、家の中でもっとも神聖な場所とされています。

  1. サツナヘリで搾る

    ブドウはまず、ワインの搾り場「サツナヘリ」で搾ります。果汁とチャチャ(果皮・梗・種)を甕へ移します。

  2. 甕の8割ほどまで

    果汁とチャチャは、甕の80〜85%ほどまで入れます。発酵の余白を残して、封をするのはそのあとです。

  3. 蓋をして、土をかぶせる

    カヘティでは石の蓋を粘土で封じ、上に土を盛ります。西ジョージアでは木の蓋(オルゴ、バディミ)を使い、黄色い土で覆います。

  4. 大切な客のために開ける

    封をした甕は、大切な客を迎えるときに開けるのが伝統です。

ワインの家、マラニ

864年に写されたシナイ山の古いジョージア語の写本は、すでにマラニを「ワインを保つための建物」と説明しています。暑い東部では石造りの閉じた建物で、銃眼をもつものもあります。湿った西部では、甕を空の下に埋めた開かれたマラニ(ოლაგვანე、オラグヴァネ)も見られます。

マラニは暮らしの祈りの場でもありました。新年には祝いの盆を持って入り、結婚したばかりの二人を連れて入って幸せを祝い、大切な客を招いて家族を祝福してもらいました。グリアの新年の習わし「アグナ」では、家長がろうそくを立てた盆をチュリの上に置き、3回まわして祈ります。

საწნახელი

サツナヘリSatsnakheli

ブドウを搾る場。石、石積み、木(シナノキがよい)の3種類。

ღარი

ガリGhari

搾った果汁を甕へ流す木の樋。「ワインを損なわない」シナノキがよいとされます。

ორშიმო

オルシモOrshimo

乾かしたひょうたんにハシバミの柄をつけた、3〜4リットルのひしゃく。

სარცხი

サルツヒSartskhi

甕を洗うブラシ。東部はサクラやシラカバの樹皮、西部はトウモロコシの皮で作ります。

修道院のマラニがよみがえる

カヘティのアラヴェルディ修道院のマラニは11世紀のもので、発掘では8〜9世紀にすでにマラニがあったこともわかっています。およそ300年埋もれていた蔵の修復が2005年に始まり、2007年の秋、伝統の方法で初めて甕にワインを仕込みました。翌2008年3月、その甕が祝福のうちに開かれました。

ジョージア国立博物館『ジョージア物質文化民族誌辞典』(2011年)、イリア国立大学『ジョージア民族誌辞典』、トビリシ国立大学の論文(2019年)、『ジョージア正教会百科事典』、アンビオニ(2012年、醸造家テイムラズ・グロンティへの取材)による

第4層 — 地中に埋める理由

なぜ地中に、なぜ卵形なのか。

安定した地中の温度、とがった底の卵形、甕を支える大地。クヴェヴリのワインは、地面の下で静かに育ちます。

地中に埋めたクヴェヴリの断面図。首まで地中に埋め、口を石の蓋で封をする。内側には蜜蝋。卵形でとがった底へ、チャチャ(果皮・梗・種)が沈み、ワインと分かれる。 地表 石の蓋で封 蜜蝋の内壁 卵形の内部チャチャが沈む とがった底にチャチャが集まる 1地中の温度 2 3大地が支える
  1. 温度の安定

    地中に埋めることで、熟成と貯蔵にちょうどよい温度が保たれ、冷却設備なしで長期の醸しと熟成ができます。発酵中は甕の中が熱を持つため、甕どうしの間隔も温度を左右します。

  2. とがった底の卵形

    卵形で、底に向かってすぼまる形。チャチャ(果皮・梗・種)はとがった底へ沈み、ワインはその上で分かれて落ち着いていきます。

  3. 物理的な安定

    大型の甕は地中に固定することで割れにくくなり、清掃・封をする作業面だけが地表に出ます。

測ってみると、わかること

32℃

発酵中の温度

カヘティで甕を0.5mの間隔で埋めた蔵では、発酵中の日平均が32℃に。3.5m離して埋めた甕は、25℃未満に保たれました。

Khomasuridze ほか(2024年)

1%未満

壁を通る酸素

乾いた素焼きはすき間が多いものの、ワインがしみ込んだ壁では、酸素の通り道が乾いた状態の1%未満に。蜜蝋でさらに少なくなります。

Nevares、del Alamo-Sanza(2021年)、ヴァルディスバニなどの古い甕の破片で測定

2.35→5

蜜蝋の役割

蜜蝋を塗らない素焼きの破片を模擬ワインに浸すと、4日でpHが2.35から5に上がりました。蜜蝋を塗ると、この変化は大きく抑えられます。

Esoyan ほか(2023年)、アルメニアの素焼きで測定

香りと成分を決めるのは、果皮と過ごす時間

クヴェヴリで果皮とともに醸したルカツィテリの総ポリフェノールは1リットルあたり2.0〜2.5g。果汁だけで造る白(0.2〜0.5g)の数倍です。研究は、その多くを果皮・種・梗とともに長く醸すことによるものと説明しています(Mittova ほか、2026年)。イタリアのボローニャ大学の試験でも、甕よりも醸す期間の長さが、ワインにもっとも大きく影響しました。

甕そのものが加えるもの — 北海道での研究

北海道岩見沢市のワイナリー Kurisawa Wines では、地中に埋めたクヴェヴリでワインが造られています。同じ畑のオーセロワで比べた研究では、クヴェヴリのワインにマグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ストロンチウムが特徴的に多く含まれていました(高橋、酪農学園大学博士論文、2021年)。

第5層 — 醸造の工程

秋から春へ、クヴェヴリの一年。

秋の仕込みから春の引き抜きまで。クヴェヴリのワインは、5つの工程で生まれます。

クヴェヴリの一年。秋に準備・仕込み・発酵、冬に醸し・熟成、春に引き抜き。 秋冬春 1 準備 2 仕込み 3 発酵 4 醸し・熟成 5 引き抜き 甕の一年 秋 → 春
  1. 準備

    クヴェヴリの洗浄と殺菌。内面は蜜蝋で薄くコーティングされることが多く、使う前に丁寧に洗います。

  2. 仕込み秋

    破砕したブドウを甕へ。カヘティ式では果汁とともに果皮・種・(生産者により)梗も入れます。ジョージア語でこの固形部分を「チャチャ」と呼びます。

  3. 発酵数週間

    自然発酵が始まり、数週間続きます。発酵中は、浮き上がる果帽を沈めてかき混ぜる作業を1日4〜5回行います。

  4. 醸し・熟成数か月

    発酵後、甕を密封して数か月置きます。カヘティ式では果皮とともに冬を越すことが多く、この間にタンニンと色が抽出されます。

  5. 引き抜き春

    春に上澄みを別のクヴェヴリや容器へ移します。そのまま熟成を続ける場合も、瓶詰めする場合もあります。残った果皮・澱は蒸留酒「チャチャ」の原料になります。

東部 ・ カヘティ式

果皮をすべて、冬を越して

甕の呼称
クヴェヴリ
果皮の使用
全量〜大部分を投入
醸し期間
数か月(越冬が典型)
白ブドウでは
琥珀色、タンニン、複雑さ
PDO の例
カルデナヒ、ティバアニなどは、翌年2月1日まで果皮の上に

西部 ・ イメレティ式

果皮を少し、短く

甕の呼称
チュリ(同種の甕の地域名)
果皮の使用
少量のみ、または果汁主体
醸し期間
短い
白ブドウでは
淡い色、酸の生きた軽快さ

第6層 — 歴史

8000年と、2013年。

8000年前のブドウ酒から、UNESCO の無形文化遺産へ。地層のように、古い時代ほど下に重なります。

  1. 2017〜2025年

    世界の言葉に

    2017年、法律に「クヴェヴリワイン」の定義が加わりました。2020年、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)は「果皮とともに醸した白ワイン」を国際的な区分に加え、その前文でジョージアのクヴェヴリの製法に触れています。2021年には甕が地理的表示に、甕づくりの伝統が国の無形文化財に。2025年4月27日、初めての「国際クヴェヴリの日」が祝われました。

  2. 2011〜2013年

    シンポジウムから、UNESCO へ

    2011年9月、第1回国際クヴェヴリワイン・シンポジウムがトビリシとアラヴェルディ修道院で開かれ、海外からおよそ60人が集いました。2012年に国の無形文化財に指定され、2013年に「クヴェヴリによる伝統的ワイン醸造法」が UNESCO 無形文化遺産に登録されました。

  3. 1991年〜

    独立後の復興

    1991年の独立後は品質を重んじる造りへ。教会は修道院のワイン蔵を復興し、アラヴェルディ修道院の蔵では2007年秋、伝統の方法で再び甕にワインが仕込まれました。一度姿を消したキシも2000年代に復興し、クヴェヴリのアンバーで評価を高めています。

  4. 20世紀

    ソ連時代

    生産は量を重んじる方向へ進みました。それでもクヴェヴリの製法は、村の人々と地域の暮らしの中で守られました。シュロマ、グルジャアニ、カルデナヒ、ツノリ、ティバアニの醸造所には大規模なクヴェヴリの設備もつくられ、1970年代には総容量が1,680万リットルを超えました。

  5. 4〜11世紀

    マラニとともに受け継がれた製法

    4世紀のキリスト教の国教化ののち、教会と修道院が醸造文化の担い手に。864年に写された写本には、すでにマラニがワインの建物として記されています。アラヴェルディ修道院のマラニは11世紀のものです。

  6. 前8〜7世紀

    クヴェヴリでのワインづくり

    地中に埋めた甕でワインを醸した、確かな考古学の証拠は鉄器時代、紀元前8〜7世紀のものです。

  7. 前6000〜5800年

    土器に残るブドウ酒

    トビリシ南方の新石器時代の遺跡(ガダチリリ・ゴラ、シュラヴェリス・ゴラ)で出土した土器の内面から、酒石酸などブドウ酒に特徴的な成分が見つかりました。300リットルを超える大きな壺もあります。2017年に国際共同研究チームが査読誌で発表した、ユーラシアで最古級のブドウ酒づくりの証拠です。

2013年、「クヴェヴリによる伝統的ワイン醸造法(Ancient Georgian traditional Qvevri wine-making method)」が UNESCO 無形文化遺産に登録されました。

登録の対象は製法とそれを支える文化・知識の継承です。ブドウを育て、搾り、地中の甕で醸して熟成させるまで。そして粘土を集め、甕を作って焼くまで。その営み全体と、家族や地域で受け継ぐ文化そのものが、無形の遺産です。

人類の無形文化遺産の代表的な一覧表 ・ 登録番号 00870

第7層 — 手入れと寿命

クヴェヴリを、守り継ぐ。

地中に埋めたままの甕を、どう掃除し、空のあいだどう保ち、何年使うのか。生産者や職人の説明をもとにまとめます。

甕の中に入り、樹皮のブラシで内壁を洗う(イメージ)
甕の中に入り、内壁を洗う

どうやって掃除するのか

ワインを汲み出したあと、毎回すぐに洗います。大きな甕には人が中に入り、水と、桜など果樹の樹皮を束ねた伝統的なブラシで内壁をこすります。乾いたおりや酒石を残さないことが、次の仕込みの品質を左右します。伝統的には石灰水で消毒し、現在は熱湯や蒸気、高圧洗浄を使う生産者もあります。洗ったあとは乾かし、仕込みまで密閉します。

内側の蜜蝋と、空のあいだの保管

焼き上げた甕の内側には、素焼きの気孔をふさぐために蜜蝋(みつろう)を塗るのが伝統です。内側に塗った蜜蝋は、剥がれや汚れがあったときに補修します。空のあいだは、乾かしたうえで蓋をして密閉し、硫黄を燃やして内部を殺菌する方法が広く使われます。地中に埋めたままなので温度は安定し、乾燥やひび割れが起きにくい環境で保たれます。

耐久性と修理

クヴェヴリは地中に埋めるため、日光・凍結・衝撃から守られ、手入れをすれば長くもちます。壊れる主な原因は、焼成のむら、埋設時の衝撃、地震や地盤の動き、洗浄中の道具による傷です。小さなひびは石灰やセメントで補修して使い続け、大きく割れた場合は掘り出して交換します。製作技術の継承も、UNESCO 登録の背景の一つです。

何年くらい使うのか

100年超

使える年数は、甕のできと手入れで決まります。生産者や職人の説明では、手入れをすれば数十年は使い、親から子へ引き継いで 100 年を超えて使われている甕もあると語られます。長く使える条件は、よく焼き締まっていること、そして内壁の状態と密閉性が保たれていることです。

健やかなワインを生む、3つの条件

ジョージアワイン・ギルドが149の蔵、1,440本のクヴェヴリのアンバーワインを調べた研究は、品質を左右する要因として、甕どうしの間隔、清掃の丁寧さ、発酵中の温度を挙げています(Khomasuridze ほか、2024年)。北海道の研究では、甕の内壁をバーナーで炙り、硫黄でいぶすと、微生物が検出されなくなりました(高橋、2021年)。

第8層 — ラベル

ラベルで、クヴェヴリを見つける。

「Qvevri」「ქვევრი」の表記が、クヴェヴリで醸した1本の手がかりです。クヴェヴリでは赤ワインも、果皮接触の短い白ワインも造られます。

法律が定める「クヴェヴリワイン」

„ქვევრის ღვინო – ღვინო, რომელიც დადუღებული და დავარგებულია ქვევრში არანაკლებ მისი დაწურვის წლის 31 დეკემბრამდე, სრულ ან ნაწილობრივ ჭაჭაზე"

「クヴェヴリワイン — クヴェヴリで発酵・熟成させ、少なくとも搾った年の12月31日まで、果皮(チャチャ)の全量または一部とともに置いたワイン」。ジョージアのブドウとワインの法律(第3条)の定義で、2017年の改正で加わりました。造り方による特別なワインの区分のひとつで、政府の技術規則は、クヴェヴリワインのアルコール度数を11.0%以上と定めています。

「アンバー(琥珀色)ワイン」は別の区分です。白ブドウを果皮とともに発酵させたワインで、クヴェヴリを使うかどうかは問いません。

クヴェヴリで醸すと定める PDO

次の呼称は、仕様書でクヴェヴリでの醸造を定めています。このうちカルデナヒ、ティバアニ、ツァラピ、アフメタ、スヴィリは、EU とジョージアの協定で EU 域内でも保護されています。

ラベルの見本

Rkatsiteli

ქვევრი ・ Qvevri

Dry Amber Wine ・ Kakheti

第9層 — よくある質問

クヴェヴリのよくある質問。

カヘティ式とイメレティ式は、どう違う?

果皮をどれだけ使うかの違いです。東部のカヘティ式は果皮・種をほぼすべて甕に入れて冬を越し、白ブドウからは琥珀色で渋みのあるワインが生まれます。西部のイメレティ式は果皮を少しだけ使うか果汁が主体で、淡い色の、酸の生きた軽快なワインになります。

カヘティ式とイメレティ式

クヴェヴリが UNESCO 無形文化遺産に登録されたのはいつ?

2013年です。登録名は「クヴェヴリによる伝統的ワイン醸造法(Ancient Georgian traditional Qvevri wine-making method)」で、対象は製法と、それを支える文化・知識の継承です。

UNESCO 登録

クヴェヴリワイン=アンバーワイン?

クヴェヴリでは赤ワインも、果皮接触の短い白ワインも造られます。アンバーワインは「白ブドウ+長い果皮接触」から生まれるスタイルで、クヴェヴリは容器の名前です。

アンバーワイン

クヴェヴリワイン=自然派ワイン?

クヴェヴリは容器・製法の名前で、栽培方法や添加物の方針とは別の軸です。クヴェヴリを使う慣行農法のワインも、ステンレスタンクの自然派ワインもあります。

ジョージアワインはすべてクヴェヴリ醸造?

生産量の多くはステンレスタンクなどの近代的な設備で造られます。クヴェヴリ醸造は、その中でジョージアの伝統を受け継ぐ製法です。

アンフォラとクヴェヴリは同じもの?

アンフォラは運搬・貯蔵用の把手付き容器を指すことが多く、クヴェヴリは把手がなく、地中に埋めて発酵・熟成に使う醸造容器です。近年、世界各地の「アンフォラ醸造」はクヴェヴリに着想を得たものが多くあります。

クヴェヴリという甕

クヴェヴリは、空気を通す?

ほとんど通しません。古い甕の破片で測った研究では、ワインがしみ込んだ壁を通る酸素は、乾いた状態の1%未満でした。地理的表示「クヴェヴリ」の仕様書も、焼き上がった甕の通気性を「ほぼ0」としています。内側に塗る蜜蝋は、素焼きの大きな気孔をふさぐためのものです。

甕をつくる

クヴェヴリを1つ作るのに、どのくらいかかる?

平均でおよそ3か月です。粘土に砂を混ぜてこね、底から15〜20cmずつ積み上げて形づくり、乾かしてから、れんがの窯で1,050〜1,200℃で6〜8日かけて焼き上げます。

甕をつくる

「クヴェヴリワイン」に決まりはある?

あります。ジョージアの法律は2017年から、クヴェヴリで発酵・熟成させ、少なくとも搾った年の12月31日まで果皮(チャチャ)の全量または一部とともに置いたワインを「クヴェヴリワイン」と定めています。

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クヴェヴリの中は、何℃くらい?

熟成と貯蔵には、地中のおだやかな温度が向いています。発酵中は熱を持ち、カヘティでの測定では、甕を0.5mの間隔で埋めた蔵で日平均32℃に、3.5m離して埋めた甕で25℃未満でした。

なぜ地中に、なぜ卵形

クヴェヴリを作る職人は、何人くらいいる?

ジョージア文化遺産保護庁によると、2021年時点で50人を超え、その約9割がイメレティにいます。

甕をつくる

クヴェヴリワインのアルコール度数に、決まりはある?

あります。ジョージア政府の技術規則は、クヴェヴリワインのアルコール度数を11.0%以上と定めています。

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